社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
化学物質過敏症における環境要因の影響について
「国立病院機構盛岡病院 副院長」 水城 まさみ
 シックハウス症候群は新築家屋入居後やリフォーム後など特定の住居環境に変わってから、住まいが原因で種々の体の不調が引き起こされる疾患である。通常室内の化学物質濃度が住環境基準上限が少し超える程度であることが多く「病んでいる家」が原因である。シックビルディング症候群、シックスクール症候群も同じに考えてよい。一方、化学物質過敏症(MCS)は、化学物質に大量ないし長期に暴露された後に、ごく微量の化学物質暴露によって起こされる非特異的な多臓器の症状を起こす病態である。従って化学物質濃度は、室内環境基準より低くても症状が起こり得る。シックハウス症候群とMCSは明確に区別される。シックハウス症候群の症状が起こってから環境改善など適切な対処がなされなかった場合は、往々にしてMCSに移行していく。さらに、MCSを発症してしまうと壁紙や床、家具、床用ワックスなど建物から発生する化学物質のみならず、殺虫剤、トイレの芳香剤、シャンプー、クリーニングされた衣類など、身の回りにある種々の化学物質や食品添加物、野菜に付着している農薬にも反応するようになり、日常生活に大きな制限がでてくる事態も起こってくる。

 さらに問題となるのは、屋外の有害化学物質にも反応するようになってくることもある。自動車の排気ガス、農薬散布、携帯電話の中継基地や高圧線からの電磁波の影響などである。とくに農業県である岩手をはじめ東北地方では深刻な問題となっている。国立病院機構盛岡病院では、平成14年12月「化学物質過敏症外来」を開設したが、岩手県のみならず東北各県からも受診者があり、この2年間で約60名が受診している。これらの患者の中で明らかな化学物質暴露のエピソードのある者43名についてアンケート調査を実施し29名から回答が得られたが、どのような化学物質に不耐性があると、どのような症状が有意に発現してくるか調べた。

 その結果、車の排気ガス、タバコの煙、殺虫剤、除草剤、ペンキ、シンナーで目や喉、気管支などの粘膜刺激症状、動悸や不整脈などの循環器症状、目まい、ふらつきなどの神経症状、頭痛、集中力低下や不安、焦燥感などの情緒、認識に関する症状など多種の症状が高率で起こってくることが判明した。また、日常生活障害の関連では、車の排ガス、タバコの煙、殺虫剤、除草剤で社会活動、家族との人間関係、新しい家具・衣類の使用などの障害スコアが高いことが分かった。

 屋外環境に関する物質については個人の努力では改善するのが困難な場合が多く、市町村単位での環境整備、国による適切な環境基準の見直しと実行、さらには地球規模での各国の調整が急務である。




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