社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
森の再生活動の課題
「(社)東北地域環境計画研究会理事」 高橋 秀洋
 これまで30年間の長きにわたって岩手県が取り組んできた松尾鉱山跡地の緑化対策事業は、平成14年を以て終了した。草による緑化はされても木の生えていない鉱山跡地を、木々の生い茂る森林にしたいと、地環研は平成7、8の両年、木を植える試験を行った。その消長は先刻、下田氏によって紹介されたとおりである。

 こうした経過を踏まえ、一昨年、地環研の創立10周年記念事業として「森の再生」をテーマに掲げ、会員の皆さんに参加していただいて植樹活動に取り組んできた。

 とは言え、いまだ地力の乏しい荒廃した山での植樹に関する知見が乏しいから、すべてが手探りで、仮説検証の域を出ず、苗木の育て方も、活着やその後の生育活力も、里山で行う一般の植樹とは全く状況の異なることを教えられる。

 いま皆さんが居る場所は、平成15年に「森の再生活動」として2回に分けて植樹を行った所である。アキグミ、ダケカンバ、ナナカマド、ハウチワカエデ、ミヤマハンノキの5種、200本が植えられた。名札を付けてあるから、ご自分の植えた苗木の生育ぶりをご確認いただきたい。ここの土は、岩石が風化してできた未熟土だ。まだ地味に乏しく、土壌三相はバランスを欠く。保水性や養分の保持力にも劣る。

 地拵えと植え付けは前年度と同様、植穴を大きく取り、土壌検定データをもとに化学肥料は省き、堆肥の量は大幅に増やし、腐植の増加による土性改良をもくろんだ。皆さんが植えられてから、こちらは1年、向こうは2年を経過し、お手元の資料データや目の前にご覧の通りの生育ぶりである。

 昨年は一昨年と同様、9月28日に植樹をしたが、ミヤマハンノキだけは苗木の調達の関係で10月15日にずれ込んだ。その結果、活着率もその後の生育活力も極端に低くなっている。里の苗畑ではまだ葉が緑色をしていた休眠期前の苗木が、いきなり初冬の高原に移されて寒さにやられたことや、根が生育不十分で弱い苗木が、今年の夏の少雨猛暑の旱害に傷めつけられたもの、と推測される。

 土壌は未熟で腐植土に欠ける。団粒構造にほど遠いから保水・保肥力に乏しい。周辺ではススキばかりが繁茂し、せっかく背丈ほどに伸びたミネヤナギは、どうしてなのか枯れてゆく。幾分軟らかい土層の下には、草木の根を通さない緊縛堅固な地盤がある。標高1000メートルの高原、冬の寒冷強風雪圧、夏の地温上昇と旱害…。そういったものへの対応をどうしたらいいか。不明な点が多い。

 今回は、こうした予測される課題への対応も試みることにし、昨年と同量の堆肥に加えて同量の黒土も用意した。樹皮チップをマルチングして旱害への対応も図った。3ヵ年計画はこれで終結するが、苗木はこれからどのような消長をたどるのか、モニタリングは不可欠である。本日ご参加いただいた皆さんから積極的なご意見をいただいて、有意義な「研究と懇話」の会にしたい。




閉じる