社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
いわての環境創造に向けて
「岩手県知事」 増田 寛也
 私たちは川を陸地からばかり見ていますが、陸地から見た川の風景で河川環境を考えるのではなく、川の中から周りを見るという発想を変えた視点で見ることが大切だと思います。建設省河川局時代の仕事を振り返って見ると今までの高度成長の波の中で、いろいろなものを川に注ぎ込んできた。そのため川の水量も少なくなり、汚れが濃縮されてきました。川にはごみが捨てられ川は痛めつけられている印象です。

 国や地方の行政は川をコンクリートの中に抑える行政をしてきたと思います。人間は水に親しんでいれば川を汚すという発想はでてきません。むしろ魚や水性昆虫となれ親しんでこそ人間の情緒が育まれるものだと考えます。昔を思い出して下さい。真夏は川に入るのが日課であったことを。 北上川は旧松尾鉱山の鉱毒汚染の赤茶色に濁った流れから現在の清流に回復するまで、290億円ぐらいの金を投入しています。昭和47年から国では中和処理施設を造り、1年に7億円の経費をかけてきました。

 今後も半永久的にそれだけのコストを注ぎ込んでいかないと北上川の清流は保てません。今後は、河川環境でもその他全般的な環境問題でも、治療策より予防策にコストをかけるべきだと考えます。環境破壊になる前の予防へのコスト計算やアプローチを深め学校教育の中でも取り入れていきます。縦割り行政の批判の中で、環境行政こそ横割りの見方が必要だと考えます。ダムなどの建築物を造る際も計画の段階で自然への環境評価を明らかにしてから次のステップに進むべきで、環境開発には慎重すぎるほど慎重な姿勢が大切と思います。

 岩手県では盛岡市飯岡新田にある県工業技術センターに隣接して環境保健センターを建設する計画を進めています。今年を21世紀に向けた環境創造元年と位置付けて環境行政の展開を図っていきます。岩手県環境保全及び創造に関する基本条例を見ていただくとお分かりのように、環境の恵みは、水、大気、森林などによって構成されています。環境が総体として良好に形成されることによって、それぞれの地域で享受されるもので、環境を守るための地域地域における行動の積み重ねが地球環境の保全につながるものであります。私たちは、正に人間が環境の中で生していただいているという謙虚な気持ちを持つことが大切です。そしてその環境は人間のみならず、すべての生命の母体であることを深く認識し、環境の保全と創造に向かって、地域からの一歩を力強く踏み出さなければならないと考えます。人知を結集して環境の時代の新しい価値観と科学的知見を持って、そしてなにより先見して、持続的な発展とゆとりある生活をもたらす、より良い環境を将来の世代に継承していくことが私たち世代の責務であると考えます。



閉じる