社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
平成14年10月5日
記念パネルディスカッション
「ふるさとの森の再生」
コーディネーター 岩手県立大学教授 由井 正敏
パネリスト 岩手県知事 増田 寛也
岩手県環境アドバイザー 村井  宏
エッセイスト 澤口たまみ
由井正敏(以下「由」):これからパネルディスカッションを行います。ふるさとというと岩手のことと考えますが東北地域環境計画研究会ですので東北のことについて話されることになると思います。それではそれぞれ自己紹介もかねながらお話願いたいと思います。

増田寛也(以下「増」):私は生まれは東京の世田谷でして、森というのはまったくありませんでした。しかし私の小学の頃は多摩川で泳ぎました。ふるさとの森ということで言います。知事になってからと申しますと、困ったなということがありまして、奥山道の問題が知事になってすぐにありまして。このことがなければ今ごろ道路ができていたのではないかと思います。そういう意味で象徴的な出来事だと思います。もう一つ、室根山の植樹に毎年行って木を植えてきました。漁民の皆さんが海を豊かにするために山を育てるという運動をするという。そんなこともあって川がよみがえってきた。漁民と山の人々との交流による地域の運動の進め方なんだなということがまったく別の意味でとても楽しみであります。

澤口たまみ(以下「澤」):生まれは盛岡で今は紫波町に住んでいますが、地元の岩手大学を出ています。今はエッセイストという紹介をされていますが、自然っていいなという話題を提供し、三つ子の魂百までもということで、私たちが小動物、無数の生き物の一つであること、生きていることのすばらしさ、親の願いを子供たちに広められたらいいなと思います。野山に行ってさまざまな命を見て救われて、自分より小さい命を見て、生きる力を得るというような「命で対話できる」子供たちがたくさん岩手に出てくれればいいなと思います。

村井宏(以下「村」):今回の十周年にかいしましてこのようなディスカッションをできればいいなと、とくに県知事さんと対話ができればいいなと思っていました。そういうことで由井先生がいるから心強いと思います。戦時中、海岸に逃げればだめだったんですが私たちは山に逃げて助かりました。私は盛岡農林専門学校に入りました。私が静岡に行ったとき、学生が車で沢におちまして、車がヒノキの木立にひっかかりまして、助かりました。木ってありがたいなと思いました。

由:これから具体的にふるさとの森をどうしたらいいかと話しますが、それぞれの立場で話されればいいなと思います。先ほど、当研究会の村井会長が自然を復元するための取り組みを紹介してくれましたが、負担者は誰がするのかなどということも含めて話してください。

増:私仕事がら奥山道のことが気になりまして、あの回復の速度というのはどうなんでしょう。

村:的確なご質問だと思います。私自身復元の早さに驚いています。あそこは雨が多く被害が拡大するのではないかと思ってました。そういう意味で回復が早いと思います。問題は笹ですがあれで止まってしまうのではないか。最終的にはアオモリトドマツになればいいなと思います。

澤:アイオン沢の件ですが、このことに関して、人工林を最終的にどうするかということに関心があるのですが。

村:これは大変大きな問題です。苗木の供給ができ、成長が早く、肥培にもいいということで、カラマツもいいですが、北上高地のどこにでもあり、これをどうするかということです。早池峰山の800メートル付近までに植えているわけです。当時では緑化すればいいということでやりましたので。当時としてはいい判断だったと思います。

由:一つは北上高地でもありますが、必ずしも急いで再生するのではなく、自然の力を利用するという再生策があるわけです。道路の載面緑化はほっとけばいいということもありますが。

村:今、由井先生がおっしゃるように北上高地は周辺の安定化とともに緑地化したらいいと感じます。もともと荒地があったこと、その禿山が下流に影響しないのであればできるだけそのままにしたらいいのではないかと、下流の状況を見ながら判断できると思います。

由:すべてが修復するのではなく人間に害がなければそれなりの植生があったり、イヌワシが生息したりするわけで、知事さんはこの件についてどう思われますか。

増:今の先生のお話でどうなるかと思いますが、平成12年に県調査した結果北上高地の460ヘクタールは緑地化したらいいのではないかということもあります。危険が高いところと、ボランティアで時間をかけながら復元したらいいところもありますので、そういう植林も含めて、かなり先まで見据えながら、長い期間になると思いますが、森の再生に向けて取り組んで行きたいと思います。

由:時間をかけて取り組んで行くというお話を受けました。これでイヌワシにとってもいいのではないかと思います。とりあえず次の話題に移りたいと思います。岩手県の緑の実態についてどう考えているかうかがいたいと思います。

増:これは森の荒廃をどう克服するかという大きな問題もあります。また産業としての林業の低迷もありまして不安定になっております。国の資金を使って、これは和歌山県で行っていることですが、雇用体制、とくに間伐の処理をどうするかという取り組み、民有林の間伐促進に力を入れていきたい。間伐実施面積はすこしづつ増えていますが、わたしどもの計画には及びません。5年間で82000ヘクタールとしていますのでこれにあわせて雇用促進にも取り組んでいくことにしています。一般の人たちにご理解いただき重点的に取り組んで行きたいと思います。これに木質バイオということもありますが、ここでは間伐について述べさせていただきます。これらのことはかなり和歌山県が進んで取り組んでいますので、この様子を見ながら県でも導入していきたい。

由:地球温暖化対策においても有効であると思います。知事さんの著書で一次産業に戻っていくということにおいても知事さんは述べています。岩手の森について澤口さんどう思いますか。

澤:農地を含めて里山をどう見るか、この里山が子供たちに与えるものをどう見るか。私自身が40年前に住んでいたところと今では別世界であるということ。今の子供たちと山というものが非常に遠いものになってきている。私の住んでいる紫波町でも広い緑の豊かな田んぼと山に住んでいる子供たちがわざわざ私のところへドジョウをとらせてと言いにくる。

由:どういう場所で澤口さんがいう子供の遊ぶ場所を確保していくのですか。

澤:今の状況で、難しいというのであれば、子供の遊び場となる、田んぼや森林を確保してほしい。子供の冒険ランドとなる、緑をつくってほしいと思います。

村:基本的には山で生活できるような人があればいいのではないかと思います。間伐対応だけではむりではないか。昔のように行くか分かりませんが山でくらしていけるようになればいいと思います。早めに適当な場所を定めて科学的な場所を設定していただければと思います。

由:知事さんはなにかこれに対するマスタープランがありますでしょうか。

増:さまざまな子供たちの学習する場があればいいのだと思います。これにはさまざまなこと、教える先生からどうするかという問題もあります。土日が休みになりましたので、学校の先生にも目を向けていただきたいと思います。地域の人たちがこのような場面で先生のような活動をするというようなこともあっていいのではないかと思います。村井先生が言っているように、山全体を少しでも付加価値が出るようにすることも大切なことでないかと思います。あと、奥山道のようなところを研究の場所として活用するようなことも大切で、ピンチをチャンスとしてモデル的なことをすることも必要でしっかりと見守っていくことが岩手県でもしていければと思います。

由:指導する先生の教育をするということも必要で、私のところでそのような職に就きたいと思っている学生もおりますのでお願いいたします。木質バイオの話題がありますが、間伐を利用するためにも有効です。知事さんはどうお考えですか。

増:これから少子化ですので間伐材を利用した校舎や学校林を有効に使う学校つくりなどが県内でもっと広がればいいのではないかと思います。木質バイオですが、ペレットを燃料にしたストーブの開発をしています。12月に試作品が5台、県の工業センターで完成するので、ストーブ自体が、花巻のサンポットという企業と提携して開発中です。このほか住田町のような取り組み、新しいエネルギーの活用方法がうまれればいいのではないか。すこしでも化石燃料から替わっていけばいいのではないかと考えています。これが林業の面でも有効に進めばいいのではないかと思います。

由:森林の新しい使い方について澤口さんはどう思いますか。

澤:子供は親の背中を見ることで育っていくという。紫波町で自然観察会があったとき小学生の子供が紫波って本当にいいなといいました。その子供はおじいさんと虫をとりに畑に行こうということを聞き、そう思いました。

由:村井先生はどう思いますか。

村:今のペレットの面でどう思うかといいますと、コストの面と普及の面、住宅の構造上、煙突がない家にどうするかということなど考えます。たとえば山に木があれば風が吹かないとか、いい水が出るということなど、緑に関心を持っている人が多い中で本当に適切な知識で人がいるかということがあり、由井先生にもますますご尽力いただきたいと思います。

由:だいぶ時間がたちましたが、岩手だけでなく日本全土が森について考えるようになれば、グリンツーリズムも進み、林業だけでなくボランティアや環境教育にも波及するのではないか。イヌワシやオキナグサのような貴重な動植物が人と共存できる環境つくりが必要であると思います。人と野生生物が共存できる岩手の自然を、森を再生できるようお願いいたします。

増:中国からの黄砂について日本では大変困っていると中国の知事さんに当たる人に話しましたら、大変申し訳ないと。中国では各地方で植林に力を入れているようです。人海戦術で小さな木を植えているようです。山の上まで全部畑にしたものを山に戻すことにしているようで、中国で大変深刻な、水不足、砂漠化の対策として真剣に取り組んでいるようです。とにかく緑を大切な財産として視点を持って取り組んでいることを見て、やっぱり大切であると真剣に考えています。

由:先人の知恵をかりてこれからのことに真剣に取り組んでいけたらと思います。これでディスカッションを終わります。今日は本当にありがとうございます。



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