社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
土砂災害から地域を守るための新しい展開
「岩手大学農学部 助教授」 井良沢 道也
 平成16年度は梅雨時の集中豪雨や台風の上陸、さらに地震災害などにより、全国各地で水害、土砂災害が数多く発生した。これは昭和57年に次ぐ災害の多さであり、これらの災害を検証すると、自然的条件としては、局所的な集中豪雨が多発し、その影響を大きく受ける狭い流域での土砂災害が多発している。観測史上最大といった降雨が各地で発生し、防災施設が想定した流量を超過した例も見られた。

 社会的条件としては、高齢者など災害弱者の被災が目立つほか、避難勧告の発令の遅れや発令されても避難しない住民が多数いた。また、区長の判断で避難し難を免れた例もあったが、過疎地や新規世帯の流入により地域コミュニティーが崩壊し、スムーズな避難の妨げとなる例も見られた。

 平成16年7月13日に新潟中越地方を襲った豪雨災害による土砂災害の実態について調査した。この日の降雨は、梅雨前線の停滞により、沿岸部の出雲崎町から山地部の栃尾市にかけて帯状の地域に集中した既往最大の豪雨で、斜面崩壊等の発生分布を見ると、降雨量の最も大きかった栃尾市を中心とする東部の山地・丘陵地域よりも、相対的に降雨量が少なかった出雲崎町、三島町を中心とする西部の丘陵地帯で多発している。この原因については今後検討が必要である。また、斜面崩壊等の大部分は小規模な表層崩壊であるが、大規模の崩壊、地すべり、土石流も発生している。

 岩手県内では、平成14年7月10、11日に釜石市で土砂災害が発生した。これについて、地域住民に対するアンケート調査を行ったが、注目すべき結果として、土石流発生前に約4割の住民が「渓流が急激に増水した」、「何か大きな音が聞こえた」「流木が流れてきた」などの前兆現象を感じていた。住民がこうした前兆現象を正しく捉えていれば、土石流発生前に自主避難につながっていた可能性がある。また、役立つ情報源としては「テレビ」の次に「家の周囲を見る」「近隣の人との連絡」が多くなっており、「インターネット」は極端に少なかった。

 「家の周囲を見る」という行為は危険を伴うため勧められないが、地域での情報が重要であることが分かる。これまでの災害時には、行政から住民へという一方通行の情報提供が行われてきたが、住民から行政へといった情報提供のありかたも必要となってくる。

 岩手県においては高齢化が進んでおり、特に災害時の行政と住民との双方向の情報提供が求められている。地域の住民に防災面だけでなく、地域活性化といった面で、平常時から里山や渓流に関心をもってもらい「環境」をキーワードに、行政と住民が連携できるような取り組みができないものかと考えている。




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