社団法人 東北地域環境計画研究会事務局


公開講演会の紹介
食と住まいのトレーサビリティ
「AXIS委員会連合 会長」 岩泉 好和
 2000年6月、国がJAS法を改正し有機JAS規格を施行しましたが、じつは、日本の「有機」は国内だけの問題にとどまらず、国際社会の影響を強く受けています。FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が設置したコーデックス委員会によって、有機食品の国際基準が決められているからです。

 それによれば、「有機農業システムは、生態系との調和に基づき、環境保全に資するものでなければならない」。つまり生産者は、空気・土壌・水などの生産環境が農薬や有害化学物質などに汚染されないよう努めなければなりません。

 さらに重要なのは、「有機」は単に農法という狭い枠のなかにとどまらないことです。有機農産物が生産者の手を離れて実需者(有機農産物を買う人全般。卸・小売店・消費者など)の手に届くまで、『輸送、選別、調製、洗浄、貯蔵、包装など』すべての段階において、有害化学物質にさらされないように配慮することが求められています。

 そして、これらの過程で有機性を保持しているかどうか検査・認証を受けるシステムの中にトレーサビリティ(生産品の履歴)があります。

 2001年に世間を驚かせた狂牛病(BSE)騒ぎや、雪印グループに代表される偽装表示事件は、まだ皆さんの記憶に新しいところでしょう。とくに雪印の場合、HACCP(危害分析・重要管理点監視システム)の国際認証を取得した、信頼するに足る優良企業であるはずでした。にもかかわらず、生産や流通の過程で汚染や偽装などが起きました。

 そこで有機食品で確立されているトレーサビリティのシステムをBSEを初めとする一般食品に適用しようとなったのです。さて、前述の偽装表示を含む不正流通事件と同じような事態が、住宅でも起こっていました。

 「秋田杉の家」というふれこみで購入した住宅に、有害薬品漬けの他県産のものや、あろうことか違法伐採を含む外材が使われていた。あるいは、無垢の木材や珪藻土を使っているから安心と思っていた「健康住宅」で、接着剤が原因と見られる化学物質過敏症が発症してしまった−−。

 いったいどうすれば、こんな事態を防げるのでしょうか?それには、食の領域で始まっている、トレーサビリティ・システムの考え方を取り入れることが有効なのです。

 同システムを住宅の素材や施工過程に上手に運用すれば、製品の素性や経路の透明性が確保でき、正確な情報を消費者に提供することができます。

 そして品質管理の効率を改善し、生産・加工・流通に携わる関係者の責任が明確にされるのです。そういう意味でCRS(企業の社会的責任)が求められている今、トレーサビリティは必須なわけです。




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